1976年頃、イギリス中に嵐のように巻き起こった「ロック史上最大の革命」、
ロンドンパンク・ムーブメント。そのブームの張本人ともいえるし、
パンク・ロックといえば、絶対外せないバンド、セックス・ピストルズ特集。
前回に続いて、彼らが残した唯一のオリジナル・アルバム
『勝手にしやがれ!!(Never Mind The Bollocks)』をピックアップ!!
このロック史上最大の問題作がどのようにして作られていったのかなどについて、
今回はお話ししていきます。
このアルバムがリリースされたのは、前に書いたとおり1977年10月。
これは、ダムドをはじめ、ピストルズより後に結成されたバンドたちの
ファースト・アルバムよりも遅れての登場となりました。
リリ−スが遅れた原因には、レコード会社による度重なる契約破棄問題も
ありましたが、じつはレコーディング自体に大きく時間がかけられていたから
なのです。
マネージャーのマルコム・マクラーレンは「これまでにない、迫力ある音」
ということに対して、メンバー以上にこだわりを持ち、それをアルバムの
プロデューサー、クリス・トーマスに伝えていました。
彼はビートルズのレコーディングにも携わっている敏腕プロデューサーで、
これまでの経験からマルコムの言う「迫力のある音」を実現するために、
同じパターンのギターを最低でも4回、多いときは12回もダビングして、その間、
チュ−ニングは直させなかったそうで、こうして微妙にチューニングがずれていけば、同じギター、アンプで同じフレーズを弾いても音に厚みが出てくるというわけ
なんです。この後、ミックスの段階で、録音したギターをいくつ採用するか
決定していったそうです。
この時期の多くのパンク・バンドのレコーディングといえば、大体が
バンドの勢いを活かした一発録りで行われて、ミックスは粗雑なもの、
というのがほとんどだったので、レコーディング方法ひとつにおいても、
ピストルズは後続のロンドン・パンク勢とは別格だった、というのが
わかってもらえると思います。
こんな手間暇をかけたスタジオワークから生まれた、いままでのハード・ロック
とは異質なロックンロールサウンドと、ジェイミー・リードのデザインによる、
イエローとピンクのショッキングなジャケットはくすむことなく、
猥雑に輝き続けています。
さて、このアルバムで全英を制覇して、いよいよ全米へと殴り込みをかけた
ピストルズは78年1月にアメリカツアーを行いますが、ツアー中にジョニーが
脱退を表明して、ロック誕生以来最大のお騒せバンドはあっけない幕切れ
となりました。そして、彼らの解散が呼び水となったかのように、
パンク・シーンも過激なだけではなく、より多彩な音楽性を持った
ニュー・ウェイブ・シーンへと変わっていきます。
解散後のメンバーの足取りはというと、ヴォーカルのジョニー・ロットンは
パブリック・イメージ・リミテッド(P.I.L.)を結成。パンクの枠をはるかに
超えた幅広い音楽を表現していきます。
ギターのスティーヴ・ジョーンズとドラムのポール・クックは、
ザ・プロフェッショナルズというバンドで、ピストルズよりもポップな
ロックン・ロールを聴かせてくれます。
ベースのシド・ヴィシャスはソロ・アルバム『シド・シングス』を発表したものの、79年にヘロインの過剰摂取により、21歳という若さでこの世を去りました。
パンクシーンが強烈に盛り上がったのは、ピストルズの活動期間とほぼ同じ、
たった2年ほどですが、この間に、じつに強烈な個性を持ったバンドが
たくさん生まれてきました。
なので、次回も当然ロンドンパンク特集です!
ダムド、ピストルズと来れば、次に登場するバンドは…、もうわかりますよね!?
〈オンエア・ソングリスト〉
1. Holidays In The Sun
2. Bodies
3. Problems
4. EMI