前回に引きつづき、'60年代後半アメリカのデトロイトから登場した
パンク、ヘヴィ・メタの元祖、MC5を特集です。
前作があまりにもクリーンなR&Rだったため、多くのファンが離れ、セールスも
散々な結果に終わった彼らが選んだ道は、1st「Kick Out The Jams」 の
エネルギーを、計算されたスタジオ・ワークで凝縮すること。こうして生まれたのが
3枚目のアルバム「High Time」。
僕は前作が凄く好きなんですけども、やはりリアル・タイムで彼らを見ていた
ファンには「骨抜きになっちまったのか!」と思わせるサウンドの変化だったんで
しょうかネェ。
このアルバムには革命思想の政治家も、バンドの行動をクリーンなイメージに
コントロールしようとするプロデューサーもいません。
ついに自我に目覚めた5人のロック・ミュージシャンが、ルーツのロックンロールと、ジョン・コルトレーンやサン・ラなど、彼らが敬愛するジャズを融合した彼らにしか生み出せないサウンドと、歌詞は鋭さを増し、革命の日々の苦い経験を歌って
いますが、アナーキーなスタンスはそのままに、「自分たちはもう誰にも翻弄
されない」という強い決意が感じられる大傑作になりました。
しかし、バンド内部はヘロインの中毒や音楽ビジネスに嫌気が差しはじめてる
メンバーがいたりと、次第に結束は崩れ始めていました。
録音時バンドの状態は最悪であったにもかかわらず、ロック史に残る名盤となった
アルバム「ハイ・タイム」は残念なことに、前作ををさらに下回る成績、
ビルボード・チャートの200位にも入らなかったのです。
この結果を受けてレコード会社側は、彼らとの契約の打ち切りを決定しました。
この後、バンドの再生をヨーロッパに賭けたが、すでにメンバーの結束のなさは
修復不能の状態でした。
そして、ついに1972年12月31日、最後のステージを行います。
場所は皮肉にも1stが収録されたのと同じライブ会場だった。
メンバーも全員揃わない中行われたこの日のステージは、当時の面影もない
ひどいものだったそうです。
結果、彼らにとって最後のオリジナルアルバムとなった「ハイ・タイム」。
そのラストに収められている 「スカンク」は、 バンドの”これから”を特に期待
させる名演が繰り広げられているのが、さらに無念に感じさせます。
〈オンエア・ソングリスト〉
M-1 Sister Anne
M-2 Baby Won't Ya
M-3 Skunk (Sonicly Speaking)